銘柄コード | 銘柄名 | 数量[株] | 売却単価[円] | 売却額[円] | 平均取得価額 | 実現損益[円] |
9678 | カナモト | 1,000 | 622 | 621,361 | 650.63 | -29,278 |
公務員の家庭に育ち、資産運用と言えば定期預金や国債くらいしか知らず、堅実に生きることが体にしみついていた私にとって、株取引は何やら恐ろしいギャンブルを始めるような気持ちして、とても緊張していた。
何もかもがよくわからなかったが、とにかくやってみないとわからない、と思った。
なぜこの銘柄を買ったのか、今はすっかり忘れてしまっている。
たぶん、それまでに読んだ株の本や、ニュース、チャートなどを参考に(全くそういうものを活かしきれてなかったと思うが)買ったのだと思う。
クリックする手は、少し震えていたと思う。
株取引を始めた一番の動機は、クリックすることで未来への一歩を踏み出せる…そんな気がしたからだ。
その頃の私は、夫とうまくいかなくなり1歳の子どもを連れて里帰り、夫とは別居していた。
完全に打ちひしがれ、毎日、離婚するかどうか考えていた。
姑にいじめられ、夫とは怒鳴り合いのけんか、初めての孤独な育児…私は完全に心を病んでいたと思う。
本当は実家にも帰りたくなかった。母は、私を日々責める。
身も心もボロボロになって帰った私に追い打ちをかける、そういう母がいた。
「お前がバカだから、そんなことになるんだ。」
「なんて辛抱が足りないんだ。早く戻れ。」
子どもと二人、どこかへ行きたかった。
でも、一人で子育てしながらやっていく自信が持てなかった。
この、やっとヨチヨチ歩きを始めた、まだおっぱいにしがみついている1歳の赤ん坊。
どうやって家や仕事を探そう、保育園はどうしたらいい?住民票が無くても入れてもらえるのだろうか。
うちの子はよく熱を出す、仕事はそんなに休めるものだろうか。
眠れない布団の中で、毎日ぐるぐると考えた。
たぶん、二人でやっていける元気が、当時の私には1ミリも残っていなかった。
あまり眠れず、いつもイライラ、ソワソワして落ち着かなかった。
目はつり上がって焦点もおぼつかなかった。
ちゃんと育てなければという焦りばかりが募り、子どもに厳しくした。
まだ、1歳だったのに。。。
夫との結婚を大反対され、勘当同然で飛び出した実家だったが、他に行くあてはなく頼るしかなかった。
頭はまったく回っていなかった。
母は言う。「あんたが悪いんだよ。」
罵られて心がキュウキュウ言い出しても、布団があって、ご飯があって、洗濯ができて、子どもにおっぱいを飲ませられる場所は他に思いつかなかった。
いつか投資をしてみたいと思い、証券口座だけは家を出る前に開設してあった。
手元にある、わずかの貯金がどうにか短期間で増えないだろうか。
お金が稼げれば、今の状況が何とか打破できると考えたのだ。
実家にあったパソコンに、証券会社のアプリをインストールした。
はじめてのクリックで、何かの壁を越えたような気がした。気持ちが高ぶった。
でも、何も考えずに買った株。
思ったより下がりすぐ手放した。
一気に月のお小遣いが飛んで、やはり、恐ろしくなった。
「やっぱり、そんな簡単にはいかないんだ。私には無理」
そう思う一方で、ワンクリックで大きなお金が動く快感を心の奥底に覚えていた。
「こんなに簡単に負けるんだったら、簡単に勝つこともできるんじゃない?」
悪魔のささやきが、心のどこかで聞こえていた。
ただ、投資でお金を増やすのは簡単ではないことを知ったことと、少しずつ元気を取り戻し、心療内科へ行くことができた私は、わずかながらの貯金をたよりに実家を出る決心をする。
子どもと二人の生活が始まり、株取引のことはすっかり忘れる日々がはじまる。